溜息は「ほろほろ」とおちる
「ほろほろ」おちて 何処かに溜まる
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二人分の食事を用意する。
といっても、それほど難しいものは作らないから、大した手間ではない。左腕が使えなくなった時に、一番危機感を感じたのは食事のことだった。同室の烏羽アキラは不器用な男ではないが――如何せん、料理のセンスだけはなかった。焦げた、と彼が見つめていた物体が、焦げるどころか紛うことなく燃えていた時に、彼を調理場に立たせるのだけはやめようと誓った。
道具を駆使して、なんとか動くだけは動くようになった左腕を支え程度にして、ようやく料理の要領を得たのは割と最近のことだ。味付けはどうにかなるが、切る炒めるが上手く出来ないのはなかなかつらかった。
「おい、皿運べ」
「ん」
出来上がった料理を鍋から皿へ移して、待っていたアキラに運ばせる。両手を使えないから、料理を運ぶのと片付けはアキラの役目だ。たまに、皿が減るのだけはどうにかしてほしいが。
「……」
「んだよ」
「何を炒めんたんだこれは」
じっと皿を見つめる。
緑色は甘唐辛子。茶色は豚肉。絡めたのは牡蠣油。
合間に見える黄色に、アキラは不審げな目を向けている。
「生姜」
「……辛くないのか」
「出来たばっかの奴だから平気だろ。筍は逃したからな」
それぞれの皿に盛った炒めものに、汁物、白米。アキラ用にはもう一品、煮物を器にあける。それをさっと目で追って、アキラがくっと首を傾いだ。
「発狂しそうだな」
「あ? ……ああ。鵄か」
アキラが名前をあげずに示した相手に思い当たって、カイナはつい、眉間に皺を寄せる。
「細かくして食わせようとしたら、全部避けやがったぜ」
「そんなことをしていたのか」
「どうやったら食うのかと思ってな」
箸を渡して、手を合せる。声を揃えた挨拶に、一瞬だけ会話が途切れる。炒めものを口にしたアキラが、一瞬だけ眉を顰めた。
「……辛いぞ」
「食えねぇほどか」
「いや。……すりおろしたらどうだ」
「………………話を行ったり来たりさせんのやめろや、手前ぇはよ」
もそもそと米を咀嚼しているうちにようやく話が脳内で繋がって、呆れたようにカイナが溜息を吐いた。
「今度はそうするか」
「汁ものか、ひき肉に混ぜればいい」
「そこまで思いつくのに、なんで手前ぇは料理が出来ねぇんだろうな」
いっそ感心したように言って、カイナはさっさと自分の分の皿をさらう。元々アキラの分よりは量を減らしてある。残った飯を片付けるのに汁物をかければ、アキラがそれを咎めるように目を細める。
「……カイナ」
「文句があんのは分かるが、聞かねぇ」
「後輩に注意するのにか」
「手前ぇしかいねぇんだからいいだろ」
椀の中味を箸でかき混ぜて、直接すする。一度は眉を顰めたものの、アキラはそれ以上口出しすることなく、残りを行儀よく片付けていく。辛いと言った割に炒めものの減りは悪くない。
余分にあった煮物まできっちり片付けたのを見て、二人はまた手を合せた。
ごちそうさま、と声が揃う。
「茶ぁ淹れんぜ」
「ああ」
アキラががちゃがちゃと食器を重ねて運ぶのに声をかける。油が口に残るからほうじ茶を先に淹れてもいいな、とぼんやり思いながら二つ、湯呑みを探していると名前を呼ばれた。
「ん?」
「また作ってくれ。生姜の」
「……ああ。まだあるから、今度な」
意外と気に入ったのかと、つい、小さく笑う。
あの後輩は生姜は食べられただろうか。
そんなことを思いながら、急須に湯を注いだ。
********************
オトン(仮)とオカン(仮)がご飯食べながら野菜嫌いの子をどうするか相談してるだけの話。
今度は食わす。自家キャラ:二ツ木カイナ
お借りしたキャラ(敬称略):烏羽アキラ(冬木さん)、鵄(渦さん)
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腐海でもなんでも自由に行き来します。
基本文字書きだと思ってたけどここ数年逆転しつつある。
男子同士のボーダーな関係に絶賛萌え中。