溜息は「ほろほろ」とおちる
「ほろほろ」おちて 何処かに溜まる
【いつも通りの食卓】(学生戦争/カイナ、虎市)
- 2014/05/10 (Sat)
- 創作小話 |
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元々生活面で煩い男だった。戦闘方に属していた時分からなんだかんだと食事は栄養が偏らないように作っていたし、部屋の片づけも意外とマメだ。姉が三人いるというからその辺りも多少は影響しているのかもしれないが、とにかく甲斐甲斐しい。
戦闘方のうちはそれでも、それは同室の自分と彼自身だけに向いていたのだが、救護班に移ってのち、幸か不幸かその視野は広がったらしい。さすがに同輩ではそう多くはないのだが、元の面倒見の良さもあってか、前以上に後輩に構うようになった。
だから。
後輩の一人が目の前で細かく切った野菜を汁から全部拾い出して皿に避け、変わらない表情ながらどこか満足げな雰囲気を醸した瞬間に、ああこれは、とその直後の雷を覚悟した。ある意味必然のように、元戦闘方である救護班の男――二ツ木カイナは自分の隣に座っている。
「鵄!!!!」
カイナが、がん、と怒鳴った瞬間に、一瞬だけ反対隣に座った同輩の女が目線を上げた。それと目があって、微笑まれる。普段なら滔々と、独特の語り口調で流れるように話す相手なのだが、微笑んだだけで口を開くことはなかった。差し当たって、触らぬ神にたたりなし、と言うことなのだろう。
「手前ぇ、その皿のはどうするつもりだ?」
「皿の上のものは食べ終わったはずなので」
「ほう……?」
別段反抗的な後輩と言うわけではないが、なぜだか食に関する部分だけは譲らない。真横でふつふつ沸騰しかけている同室者から、そっと自分の食器を遠ざけた。
さん。
に。
「ふざけんじゃねぇ殺すぞ!!!!」
いち。
思うより一拍早く、爆発した。カイナが掌を机に叩きつけて、そのせいで避け損ねていた湯呑みから少し、茶がこぼれる。測り損ねたと憮然としていれば、横からふきんが差し出された。
「あん人は、ほんとに、後輩が可愛くてしょうないんだねえ。どうせ甘やかすぜ」
けたけたと、それでも常よりは控えめに笑った同輩の女の手からふきんを受け取る。
「……食事中に騒ぐのはどうかと思うが」
「頭に血ぃのぼりやすいからね、あん人は。御しやすくていいんじゃないかい」
ちらりと視線を流して、喉の奥で笑う。馬鹿にしたようにも見えるその挙動を眺めて、湯呑みに残った冷めた茶を口に含んだ。
「縄をつけた覚えはないな」
「あっちも覚えはないだろうな」
「……何が言いたい、葉矢見三年」
湯呑みを置いて、改めてそちらを見れば、何故か満足したような表情で彼女は笑う。つい、と白い指先が向こう側を指した。
「そろそろ止めて欲しいってことさね」
「あーあー聞こえません」
彼女の言葉に、後輩の声が重なる。
「聞こえてんだろ……おい、片付けようとすんな!」
「全部食べましたよ?」
「皿の上のものはなんだよっ」
「ここに俺の食べれられるものは乗ってません」
気付けばヒートアップしていたらしいやり取りに、正直振り返りたくもなかったが、目の前ににやにやと笑う女は振り返るように顎で促す。
仕方なく振り返れば、丁度カイナが匙で器用に集めた野菜を後輩の口へ押し込んでいるところだった。
――どうしてそうなった。
「う……え、ひ、ひど……なんてこと、するんですか」
「嫌いだって避けてばっかいるから手前ぇはそんな顔色なんだろうが」
「食べられないって言ってるじゃないですか……」
調子よく喋っていたのが急に勢いが弱まって、ぐったりとしはじめた後輩に、流石のカイナも眉根を寄せる。後輩の方はそれでも、口に入れた分を吐きだすことはしなかったらしい。ぐずぐずと恨み事らしい言葉を吐きながら机に突っ伏す。
「野菜の次くらいに先輩が苦手かもしれないです……」
「そうかよ。そりゃあ、運が悪かったな」
こんなんが先輩で、と。そんな言葉と共に後輩の頭をぐちゃぐちゃと撫でる。
傍から見れば分かりやすい行動は、される側としていくらか覚えがあった。けたり、と耳に障る笑い声が届いた。
「思ったより早く止まったなあ」
「……最初がいつもより早かったからな」
「よく分かってるじゃあないか。仲がいいねえ」
楽しげに笑って、気配が遠のく。食事は終えていたようだから、大方片付けにでも移ったのだろう。視界では髪を乱された後輩が、恨みがましくカイナを見上げている。カイナは一度報いたので落ち着いたのか、再び席について残った食事を片付けていた。よく見れば皿が後輩のものと取り換えられている。
甘やかす。
――ああ。
「だから、改善しないんだろう」
思わず、口に出す。
二人にそれは届かなかったようで、一拍置いて、もそりと残っていた食事を食んだ。
いつも通りの食卓。
******************************
ちょっと話させようとしたらカオスった。
アキラさん視点にしたのが悪かったとは思っている。
自家キャラ:二ツ木カイナ、葉矢見虎市
お借りしたキャラ(敬称略):烏羽アキラ(冬木さん)、鵄(渦さん)
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創作好きな籠り虫。
腐海でもなんでも自由に行き来します。
基本文字書きだと思ってたけどここ数年逆転しつつある。
男子同士のボーダーな関係に絶賛萌え中。
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