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溜息は「ほろほろ」とおちる

「ほろほろ」おちて 何処かに溜まる

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【ついたのか】(オカルト男子)



 昼休みのことだ。たまたま三人そろって午後イチの授業があったから、昼飯でも一緒に、と言うことで食堂にいた。次の授業のための本を借りてこなければという日ノ原に、淡野が「図書館行くならついでに借りてきてくれ」と頼んでいるのを聞いて、唐下はおやと首を傾げた。二人よりも一つ学年が上である淡野だが、年上であることを笠に着てというタイプでもなく、むしろ何かが必要ならば自分で動き出してついでになにか用事はあるか? と尋ねてくる方が多いくらいだ。
 ほんの些細な違和感であるから、頼まれた日ノ原の方は快く了承し、その場を離れる。それをなんとなく見送ってから、つい、と淡野の腕をつついた。
「淡野」
「なん」
「なんで日ノ原に頼んだんだ」
 唐下の言葉に、淡野はかすかに首を傾げる。
「おかしいか」
「そんなにおかしくないけど。普段ならあんまりたのまないだろ」
 なんとなく、と尋ねた理由を曖昧に答えれば、淡野はそれにふむ、と考え込んでかすかに眉根を寄せた。
「電気がつかねぇからな」
「は?」
「うん……まあ、幻覚だ。たぶんな」
 気にすんな、と話を断ち切って、淡野は手元の冷めた茶をちびりとすすった。

 十五分ほどして、日ノ原が帰ってくる。おそらく行く前から借りる本は決めていたのだろう行っていた時間の割にはカバンが重そうだった。そこから淡野の指定した本を出しながら、そういえば、と口を開く。
「第2閲覧室の電気がつけっぱなしでさあ……スイッチ見つかんなくて放ってきちゃった」
 その瞬間に、淡野が何とも言えない顔をする。表情に反して口を開く様子のない彼に変わって、唐下が応じた。
「人がいるならいいんじゃないか」
「いや、誰もいなかったから消そうとしたんだけど……まあきっと司書さんが消してくれるよね」


「……ついたのか」


 呑気にそんなことを言う日ノ原の言葉に重ねるように、淡野が小さくつぶやいた。真横にいた唐下には辛うじて聞こえたその言葉を、訝しく思って問いただそうという前に、淡野の表情はいつも通りに塗り替えられる。
「そうだな。きっと消してくれんだろ」
 まったく思ってもなさそうなことを日ノ原に言って返した。日ノ原も日ノ原で特に気にするそぶりもなく、だよな、などと同意してその話はなんとなしに流れてしまう。次の授業のことだとか、いずれは始まりそうな就活の話だとか、けれど唐下は小さく積み重なったその違和感をどうしても看過できず、日ノ原がお先に、と席を立ったあとに改めて淡野に尋ねた。
「なあ、電気つかないって、閲覧室の話?」
「……そうだけど」
 聞くのか、今、それを。
 そんなことを考えているのがありありと分かるような表情で、淡野が短く応じた。それで話を終わらせたそうにするその様子を無視して、更に重ねて尋ねる。
「故障か何かってわけじゃないよな?」
「暗いのが怖いとはいわねぇよ?」
「や、それは嘘だろ」
 まとめやら動画やらゲームやら。ホラーオカルトの諸々を漁りに漁って寝る夜は電気を点けっぱなしか、唐下に妙に近い位置で寝るのを知っている。咄嗟のその言葉に拗ねかけた淡野を無理やり軌道修正して、話の続きをさせる。
 渋々といったふうに、淡野は口を開く。
「第2閲覧室って、半地下じゃん。窓もなくて、暗いのな」
「……うん」
 自分はあまり足を踏み入れないジャンルが詰められた場所だから、少し考えてようやく思い出すようだ。数段の階段を下りた、その下。書棚が整然と並ぶ。空調で一定に保たれた空間であるはずなのに、ひんやりとした、その場所。
「そこをさ、歩き回ってるやつがいるんだよ。ぺたぺた。暗いままで」
 音がすんだ、と。淡野が如何にも気味悪そうに言う。
「……いや。別に、怖くないだろ? 電気つけるの億劫だった人が、携帯のライトかなんかつけて歩いてるんじゃ」
 唐下の言葉は途中から尻つぼみになる。前髪で遮られた奥から、淡野が胡乱にこちらを見上げていた。
「お前、行かないから気付かねぇか。

 ……あそこの閲覧室の電気、センサー式の自動点灯なんだよ」

 だから行きたくない。やだ。
 淡野は吐き捨てるようにそう言って、ふるり、と一度頭を振った。
「……ええと」
「故障じゃねぇって、君も聞いてんだからな。俺が入ると、ちゃんと電気がつくよ。……まあ、 でも、いつもの幻聴だよ。たぶん」
 切り捨てるように言う。
 だから、日ノ原に行かせたのか。
「……あ、でも、今日は電気ついてたんでしょ。それなら怖くないんじゃ」
「馬鹿め」
 短く言って、淡野は目を眇める。
「センサー式の自動消灯……誰もいなきゃ、消えんだよ」
「あ」
「また、出方が変わったのかもしれねぇけど、それより」
 そこまで中途半端に言って、淡野は口をつぐんだ。
 そこで、ふと。
 淡野が漏らした言葉を思い出す。
「……淡野」
「うい」
「さっき、ついたのかって。言ったよな?」
「…………」
 また、あの顔をする。
 それを聞くのか、と。
 でも言い出したからには、聞かずにはいられなかった。
「電気の事かと思ったんだけど。まさか、あれって」
「……日ノ原には言うなよ。違ったからって、別に」
 どうせ俺の幻覚なんだから。
 繰り返して、淡野はふい、と視線をそらす。
 強いて幻覚と言うなら、あんなことを言わないでほしい。





 憑いたのか、なんて。





*********************************
オカルト男子のホラーっぽい話。
きっとぜんぶは淡野の幻覚です。
だから怖くなんてないのです。

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