溜息は「ほろほろ」とおちる
「ほろほろ」おちて 何処かに溜まる
【赤い糸のはなし】(オカルト男子)
- 2015/02/07 (Sat)
- 創作小話 |
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このあいだ、赤い糸が見えるようになったんだ、と唐突に言った淡野に、日ノ原は一度、二度と瞬きをしてから首を傾げた。
「赤い糸?」
って、これ? と左手の小指を立てて言う日ノ原に、淡野はいつも通りの表情で頷く。元々淡野は表情が乏しい。何を考えているか分からないその顔を見ながら、日ノ原はひょこひょこと自分の小指を動かして小さく唸る。
「ん。……んー」
「幻覚だろ?」
淡々と口にした淡野に、日ノ原の表情がぱっと明るくなった。
「ああ、ついにその口癖さえなくなったのかと思った」
「まさか」
そうなったら病院連れてけよなどと軽く言いながら、淡野は日ノ原に倣うように右手の小指を立てた。付け根をつ、となぞる。
「ここにさ、巻きついて見えてたんだ。最初なんか絡めちまったのかと思ったけど、ひっかいてもずれねぇし。触れねえから、また幻覚だろうとは思ったんだけど」
その『赤い糸』がどこかに伸びているの気付いたと淡野は続けた。指に巻きついたものほどはっきりと見えたわけではないが、薄ら赤く目に映るそれはたしかにどこかへ続いていたという。
「淡野のは、唐下に?」
からかい半分という雰囲気で問いかけた日ノ原に対し、淡野は特に焦るでも不機嫌になるでもなく首をふった。
「んにゃ。知らない。そん時唐下いなかったし」
「へー……? ねえ、俺のも見えるの」
心持ちわくわくとした顔で突き出された日ノ原の小指を、淡野は無言で逆に曲げた。日ノ原は悲鳴をあげて、さ、と背中の後ろまで指を引っ込める。
「こわ! 折れるよ!」
「折れねぇよ。どこ繋がってるとか、知らん。今もう見えないし」
「え? 見えなくなっちゃったの」
「残念そうだな、あんた。所詮、幻覚だぜ?」
面白そうに口の端を歪めた淡野は、けれど、次の瞬間に真顔になる。立てていた小指を戻して、代わりに右手は「ちょき」の形を作る。
「だってさ、繋がってなかったらやだろ」
「え?」
「唐下に。確かめたくなかったしだから切った。……ら、全部見えなくなった」
「そうなんだ……?」
言いながら、日ノ原は首を傾げる。何かおかしいような気がしたが、捕えきれない。淡野はその様子を気にすることなく、ちょきん、と日ノ原に向けた右手の指をハサミのように動かした。
「……繋がってたかもしんないけどな。俺の幻覚だし」
「あ、ソウデスカ」
惚気られたような気がして、日ノ原はなんとなく釈然としないままぺし、と淡野の右手を叩き落とした。
右手。
「淡野、赤い糸ってどっちの手だっけ?」
「あー……色々言われるけど、左手って言われることが多いんじゃねぇの」
淡野が先ほどから示す手は右手だ。幻覚に整合性を求める方がおかしいのかもしれないが、なんとなくそれが引っかかって、思わず口に出す。
「淡野のは、右だったのか」
「……いいやあ?」
どことなく笑いを含んだ声で、淡野が応える。
「左だよ」
言いながら、左手を出すことなく、淡野は再び右手で形作ったハサミをちょきん、と動かした。
「切っちまって、結べなくなったから見えなくなったんだろうな」
ちょきちょきと。
淡野は横向きに、手指を動かす。
「……淡野さあ」
「ん?」
「唐下に赤い糸が見えたらどうするの」
日ノ原の問いに一拍置いて、淡野は破顔する。目を細めて、こどものように笑った。ぱ、と日ノ原の眼前に、淡野の左手が広げられた。
そこにないものを確かめて嘆息する日ノ原に、いつになく弾んだような調子で、淡野が言う。
おそろいに、するよ。
ちなみに後日この話を唐下に漏らしたら、「左手は薬指のが重要だよね」と返されて、日ノ原はこいつらと友人をしていて本当にいいのかと改めて自分を問い詰めたくなったのだが、まあそれは別の話。
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創作好きな籠り虫。
腐海でもなんでも自由に行き来します。
基本文字書きだと思ってたけどここ数年逆転しつつある。
男子同士のボーダーな関係に絶賛萌え中。
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