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溜息は「ほろほろ」とおちる

「ほろほろ」おちて 何処かに溜まる

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『ぐん、とペダルを踏めば』



 ぐん、とペダルを踏めば、思った以上の負荷が足を襲う。
 普段は一人分プラス自転車自体の重さだけであるところに更にもう一人分重さが加えられているのだから、なるほど、考えてみれば当たり前なのだが、なんとなく腑に落ちなくて荷台に腰を落ち着かせている男に向かって叫ぶ。
「お、っも、い!!!」
「標準体重だぞ」
 しれっと返す声は近く、それにぞわりと震えた背を無視するように言葉を重ねる。
「つまりは俺より重いだろうてめー! ふざけんなっ」
 俺は二十歳男の平均身長の標準体重――対して荷台に可愛らしくなんて決して言えない風に収まってる相手は俺より五センチは身長が高い。つまりはその分重い。加えて奴は運動部で、筋肉は脂肪より重いというのは定説だ。
「二人乗りがしたいっていったのは手前ぇだろうが」
 たしかに。
 家を出る前に二人乗りって憧れだよなとか、そんなことを口に出したのは俺だ。でもどうせなら、俺が荷台に乗る側でも良かったと思う。
「乗せる、なら! じょし、が、良かったなー!!」
 言いながら、ぐん、ぐん、とペダルを踏み込む。
 スピードに乗ってくれば少しは楽になってきて、顔をなぶっていく空気が思ったより春めいているのにも気付く。暖かいというより柔らかい。
「お客さんどこまでー!」
 そのことに少しだけ気分は上昇。簡単なもんだ。ついでに背後に向かって声をかければ、間髪置かずに、
「コンビニ」
 と、答えが返ってくる。
 どうせ期間限定の菓子辺りが目当てだろう。俺も炭酸が飲みたい気分だったからそれに頷いてハンドルを切る。いつもよりも大きく揺らぎながら進路を変える自転車にひやりとしながら、また大きくペダルを踏み込んだ。
「帰りは」
「あん?」
 低く声が響いて、少しだけ俺の服が引かれるような感覚がある。
 そうか、俺に掴まって乗ってんのかコイツ。 
 意識した途端なんとなく自分の意識がそこに集中してしまって、振り払うように首を振った。
「なんだよ!」
「帰りは、乗せてやるよ」
「え、」
 物理的に距離が近いから。
 声を聞くたびに妙にざわつくのはきっとそのせいだ。
 振り返ることも出来ずに思わず言葉を詰まらせれば、淡々と、もう一度繰り返す。
「二人乗りしようぜ。乗せてやる」
「……絶対だからな!」
 応じて、また少し加速した。コンビニまで自転車で五分もない距離だ。もうすぐ、着いてしまう。
 そうして次の五分は、今度は、俺がこいつの背中を見る番だ。
 妙に浮き立った気持ちは春めきはじめた柔らかな空気のせいで、俺はそれを切り裂くようにまたぐん、とペダルを踏んだ。



*****************
某所で読んだ文章に萌えたからボーダーな文章が書きたかったんだ。
何がボーダーかは察して。
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創作好きな籠り虫。
腐海でもなんでも自由に行き来します。
基本文字書きだと思ってたけどここ数年逆転しつつある。
男子同士のボーダーな関係に絶賛萌え中。

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