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溜息は「ほろほろ」とおちる

「ほろほろ」おちて 何処かに溜まる

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『ぱらぱらと音がする』



 ぱらぱらと音がする。
 本や雑誌のページをめくるには硬質なその音に部屋の反対側に目をやれば、さっきまで必死に携帯ゲームと格闘してた奴がクッションを抱きこんで何やら床に並べていた。
「何やってんだ」
 言いながら近寄れば、並べられているのがトランプだと分かった。その辺から見つけてきたのだろう。薄っぺらいプラスチックに描かれた模様には見覚えがある。目の前では、裏返って積まれた札と表になった札が整然と並べられている。首を傾げた。
「占いかなんかか」
「そんなんできねぇよ。ソリティア」
 微かに笑って答えられた言葉に、いつだったかパソコンでやったカードゲームの画面を思い出して納得する。
「パソコンじゃなくても出来んのか」
「カードゲームだしな」
 まあパソコン版のルールしかしらねぇけど、と付け加えて、ぱらぱらと札をめくっていく。女のように綺麗な指とは言えないが、札を扱うその手つきは妙に丁寧で思わずその動きを見つめた。
 めくる。移動する。めくるめくるめくる。移動。移動。
 無秩序に並んでいたものがどんどん整理されていくのは見ていて面白い。
 機械的に動いていた指が、不意に止まった。
「……詰まったわ」
 手詰まりらしい。眉間にしわを寄せて、並んだカードを見つめる。運の要素も多いゲームは、カードの出方によっては手詰まりも多く引き起こす。しばらく山札をくりかえし眺めたり、既に場から避けたカードを戻したりしていたが結局立ち行かなくなったらしい。
 溜息を一つ、山と場のカードをかき混ぜた。
 ぐしゃり。
「終わりか」
「んー……まあ、別に暇つぶしだし。つうかお前も暇な?」
 見てて面白いか、と聞かれて、是と言えば少しだけ呆れたような視線を寄越された。お前の指を見てるのが面白かったと付け加えようとしたが視線が冷えるのがなんとなく予想できたので口をつぐむ。
「トランプやるなら俺も誘え」
「あ? ……っても、二人でやるのゲームとか、神経衰弱とかポーカーくらいしか思いつかねぇよ」
 その他のゲームでは相手がなんの札を持っているか分かってしまってつまらない、らしい。それならそのどちらかでいいとゆすれば、構ってちゃんめ、と感慨もなく返された。
「俺どっちも好きじゃないからやりたくない」
「じゃあ誰か呼ぶか」
 三人になるならゲームの幅も広がるだろうと思わず口に出したが、そこまでトランプに固執する必要もないと気付く。一瞬考えるような間を置いて、相手の方がゆるりと首を振った。
「……二人でいい」
 返答としてはどこかずれていたが、それだけでなんとなく満足する。
「もう一回」
「あ?」
「もう一回ソリティアしろよ」
 自分も相手にならってクッションを引きよせながら言えば、ぱちり、と瞬き一つのあと、仕方なさそうに笑う。ぐちゃぐちゃになったカードを寄せ集めて、一つの山を作った。
 ぱらぱらと、カードがめくられる音がする。
 二人きりの部屋にその音は変に心地よく響いた。


*************************
今日の分。
実は『ぐん、とペダルを踏めば』の二人と同じだけど分かりづらい。一応視点は前回と逆。
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