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溜息は「ほろほろ」とおちる

「ほろほろ」おちて 何処かに溜まる

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『たん、と屋根をうった音に窓を開けた』



 たん、と屋根をうった音に窓を開けた。柔らかく変わってきたと思った空気と一緒に、独特の匂いが一気に部屋に入ってくる。ベッドに背を預けて雑誌をめくっていた同居人がちらりとこちらを見て一言、「寒い」と眉根を寄せた。軽く謝って窓を閉める。
「雨降ってきたぞ」
 丁度同居人の真向かい、ちゃぶ台を挟んだ場所に腰をおろしながら言えば、相手は軽く頷いたあとにふと気付いたように不機嫌そうな顔になった。
「……買い物行くって言ってたか」
「おー。今日鍋って言ってたじゃん。白菜ないから買い行こうと思ったんだけど」
 めんどくさ、と溜息を吐く。つまりは二人して雨の中買い物にいくのが億劫なのだ。とはいえ白菜と言えば俺たちが作る鍋の主役と言っても過言ではない――嵩増し的な意味で。大学生の男二人の作る鍋なんて所詮質より量だ。
「止まねぇかなー……」
「どうだかな。……このあとも降水確率高いみたいだぞ」
 かちかちと携帯を弄って、おそらくは気象関係のサイトでも見たんだろう。淡々とそう返してきた相手に半笑いを返してちゃぶ台に突っ伏した。
「めんどくせぇ……」
「予報見なかったのか」
「あ? ……あー、いや、昨日ちらっと降水確率は見たんだけど、また雪かと思った」
 立春を過ぎ、空気も柔らかくなってきたと感じる日も多いが何しろ俺たちが住んでいる地域は山合いで冷え込む。だから降水確率だけちらりと見た時も「ああ、また雪かー。さみぃなあ」くらいに思ったのだ。
 雪ならまだ出掛けるのも面倒ではない。何が違うかと言えば気分の問題なのかもしれないが、少なくとも水滴が直接降ってくるのとふわふわとした結晶が落ちてくるのではなんとなく後者の方が気軽に出かけられるような気がするのだ。
「馬鹿め」
 ふ、と心底馬鹿にしたように口元を歪めて笑う同居人を無言で蹴りつける。大したダメージではないのだろう、伸ばした足を雑誌で軽く叩かれた。
 たん、たん。
 屋根を叩いているのだろう雨の音はどんどん数と速さを増して、粒が空気を裂く音まで聞こえそうなほどの本降りに変わりつつあった。彼の言うとおり、これでは夕飯を作るまでに止むのは絶望的だ。面倒だけど出掛けるか、と腰を浮かせかけたところで相変わらず雑誌に視線を落としていた同居人がぼそりと呟く。
「……鍋やめるか」
「は、いや、たしかに出掛けるのはめんどいけど別に買い物は行くぜ?」
「買い物の方じゃねぇよ」
 相手は雑誌を閉じて、顔をあげる。
「雨降るくらい気温あるなら、もう鍋って感じでもねぇだろ」
「……ああ、そういう」
 まさか俺を気遣ったのか? なんて。
 一瞬でも目を瞠った俺だったがその言葉に納得する。たしかに。雪だろう寒いだろう――なら鍋だろうと決めた今日の献立だ。
 でも今日は雨だ。
 たしかに少し肌寒いが、芯まで冷えるような感覚はない。加えて、雨。柔らかな空気に溶かされた結晶が、冬らしさと一緒に一気に溶けてしまったような、そんな天気。
「――よし、別の献立にしよう」
「おう」
「なんか食いたいもんなるか?」
「さあ……あるもん次第だろ」
 それもそうだ。
 立ちあがって、キッチンの方へ向かう。冷蔵庫の中には何があったか――考えながら聞く音はたん、たんという軽快なものではなく柔らかな流水音へ変わっていた。
 さあ、さあ、と。





******************
フォロワーさんよりいただいたお題は『雨』。
ちなみに前と同じ二人。そろそろ設定ちゃんと考えようぜ。
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