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溜息は「ほろほろ」とおちる

「ほろほろ」おちて 何処かに溜まる

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【名前】

名前を呼ぶだけの話








「アリス」
 呼べば、振り返った彼は奇妙な顔をした。踵を返して、僕の目の前で膝を折る。
「なんでそういう呼び方をするのかしらね……あたしの喋り方が嫌?」
「そんなことはないよ」
 首を振れば、それじゃあ、と言ったきり困ったような顔をする。最後までちゃんと言ってくれればいいのに、と思う。
 彼が言い淀むから、つい、試したくなる。
「……お父さん」
「なあに?」
 あからさまにほっとした顔をした。そこに両手を伸べる。
「だっこ」
「……あら、仕方ない子ねぇ」
 引き寄せられて、ぐっと視界が高くなる。格別にというわけではないが、彼の背はすらりと高い。柔そうではないものの線が細く思える彼がいつまで僕をこの高さへ連れてくれるのか――それとも、何年かしたら僕の方がこの高さに追いつけるのだろうか。
 見下ろせば小さな僕の手。それをしばらく眺めて、彼の首にぎゅっと回した。
「どうしたの、アベル。眠い?」
「……うん」
「寝てもいいのよ?」
 ぽん、ぽん、と軽く背を叩いてくる手が心地いい。別に本当に眠いわけではなかったけれど、このまま寝てしまってもいいか、と目を閉じる。
 『お父さん』。
 なんで、貴方は名前を呼ぶと困ったような顔をするんだろう。彼のそれは正しくはニックネームのようなものだ。けれど彼にとっては本名に近しく、そして名前を呼ぶ親子は珍しくもない。
 なのに。
「いい子ね……」
 声はどこまでも低くて、柔らかい。
 僕を嫌っているわけじゃない。
 それは知っている。
「ねえ」
「うん?」
「明日は、としょかんに行きたい」
「ええ、いいわよ」
 小さく強請るように言えば、少しの笑い声と一緒に是の答えが返ってくる。
 貴方は僕を愛している。
 知っている。
 なら、なんで?
 なんで貴方は……間違うのだろう。


「ありがとう――『アリス』」
「いいのよ、『アダム』」


 僕が貴方の名を呼ぶ度に、貴方は僕を『アダム』と呼ぶ。



                          (ねえ、そんなに『あだむ』がすきだったの)



****
例の養子ネタより、たぶん八年後くらい。
アリスちゃんの色々な行動が意味深すぎて変な勘繰りされる感じ。
きっとアベルくんはアダムさんそっくりの賢い美少年(・ω・)
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腐海でもなんでも自由に行き来します。
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